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2007年3月16日 vol.532  
Today's President

株式会社Qript
代表取締役CEO 渡邉 君人 氏

裏方の人間はまったくフォーカスされなかった

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プレジデントインタビュー

裏方の人間はまったくフォーカスされなかった


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【増永】 渡邉社長が起業されるまでの話を教えてください。

中学時代に遡ります。もともと中学生のときからコンピュータを利用していたこともあり、将来的にはソフトウェアを創り出すような仕事に就きたいと思っていました。

大学は大阪外国語大学へ進学し、英語科を専攻しました。というのも、中学生の頃からコンピュータを含めたIT関連のマニュアルをよく読んでいたのですが、英語のものが多かったんです。そこで、将来IT系の道に進むのであれば英語は必須であろうと思い、外語大学に進みました。

在学中には、現在マザーズに上場している「総合医科学研究所(現 総医研ホールディングス)」という会社に協力してあるソフトウェアを開発しました。

現在「脳トレ」が流行っていますが、実はその原型ともいえるようなものになります。「痴ほう度発症予測ソフト」というのですが、使用することによって脳年齢がわかったりするものです。これを1997年ぐらいに開発しました。

このとき気づいたのが、開発者であるプログラマーとかエンジニアには、まったく光があたらないということでした。要は、きちんと周囲から評価されないのです。

ソフトウェアに限っての話ではないと思いますが、一般的には誰がそのソフトを監修したかといった具合に、監修者の名前を全面に出します。売るためには当然、教授の名前が取り上げられたりするわけですが・・・実際に現場で創った裏方の人間はまったくフォーカスされなかったのです。そういう実態を目の当たりにして、これはプログラマーやエンジニアの成長にとって、良い環境とはいえないと感じました。

当時の経験をもとに、ただ売れるためものを創るのではなく、それを創り出した人自身を評価していく―そんなIT産業をつくりたいと考えるようになりました。

そして大学卒業後は、大阪大学大学院の工学部に進みました。このとき周りにいた仲間に声をかけて、「クリプトワンソフト」という会社を発足したのです。

● それが渡邉社長の起業のきっかけになるのですね。

そうですね、これまでの経緯もあり、Qriptはモノづくりの考え方をすごく大切にしています。2004年に社名をQript(クリプト)に変更したのですが、Qriptとは「Quality Product」の略で、「価値ある製品」という言葉をもとにした社名です。

その言葉のとおり、IT企業として価値ある製品・サービスを自分たちの手で創り出して、お客さまに提供していこうという思いが込められています。なにか商品となるモノを持ってきて右から左へ転売するような、そういった方針はとっていません。

自分たちの力で商品を創って、それをより多くのお客さまに使っていただき喜んでいただきたい。そういったスタンスをもったビジネスを、私たちは大事にしています。


 
 
President
 

当時はインスタントメッセンジャーの存在をまったく知らなかったので、自分たちで創ろうという発想につながったのだと思います。



● では御社の事業紹介をお願いします。

現在、Web制作・システム構築事業、そしてメインとなるインスタントメッセンジャー事業を展開しています。インスタントメッセンジャーとは、インターネット上で同じソフトを利用している仲間がオンラインかどうかを調べ、オンラインであればリアルタイムなテキストのやりとりやファイル転送などを行なうことができるアプリケーションソフトのことです。「IM」「メッセンジャー」などとも呼ばれます。

これについては早い段階から取り組んでおり、企業向けに「Yocto(ヨクト)セキュア・メッセンジャー」という商品を出しています。情報管理やセキュリティーを考慮した製品で、企業内で安全に利用できるインスタントメッセンジャーです。

「Yocto」をリリースする以前には、コンシューマー向けのインスタントメッセンジャーをリリースしていました。当時「キャラメ(キャラメッセージ)」というネーミングで、約10万人のユーザがいました。

しかしユーザの接続が集中すると、サーバがストップしたりとトラブルが発生しやすい状況でもありました。

このキャラメのリリース、そしてその後の改良が、現在の「Yocto」につながっていきました。

● キャラメの制作に至ったきっかけは、どのようなことだったのでしょうか。

もともとインスタントメッセンジャーの事業自体は、2000年の創業当時からスタートしています。

大阪大学大学院在学中の話になりますが、大学の敷地は端から端まで歩くと30分以上もかかるぐらいに広大でした。敷地内をバスも走っています。

それぐらいに広いものですから研究室に行ったところで休講だったりすると、かなり時間を無駄にしてしまう。それでなにか、お互いに状況がわかるようなソフトを創りたいね―そんな話を研究室のメンバーとしていました。

お互いの状況がわかって、さらにメッセージのやりとりもできると、返信を待ったりメッセージを読んだかどうか確認したりするムダがなくなって、すべてが早くなるよね・・・そうして必要な機能を開発していったものが、原型となっています。

当時はインスタントメッセンジャーの存在をまったく知らなかったので、自分たちで創ろうという発想につながったのだと思います。

【続く:1/6】


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起業家物語


競争社会の縮図




「あ、また西岡代理(仮名:私のインストラクター)が寝ている・・・」
※代理=「課長代理」:大和証券内での役職の一つ

 

二種外務員資格試験を終えた私たちが、次に気になるのは配属先がどこになるのかということです。7月末までの残りの2ヶ月の研修期間は、資格試験の勉強の日々に比べれば気楽なものでした。

 

「うぉ、すまんすまん。昨晩さぁ、飲み過ぎちゃってさぁ〜」

 

私たちのインストラクターはいまだに酔っているのではないかといわんばかりの口調でお詫びの言葉を口にしました。

 

経営の要諦の一つに「人材採用に優秀な人材を充てる」というものがあります。これと同じくらい重要なのが「人材教育にも優秀な人材を充てる」というものです。

私たちのインストラクターをつとめる西岡代理もそういった人物の一人であり、過去に大きな実績を出した方なのでしょう。ただ、それがなんだったのかは聞かず仕舞いになってしまいましたが、人柄がよく、みんなからも「話のわかる兄貴」のように慕われる存在でした。私が本配属になってからも気軽に相談でき、会社を創ってからも食事に誘ってくれたりしました。

 

「ぶっちゃけさぁ、こんな難しい専門用語なんて覚えなくてもなんとかなるんだよ〜」

 

私は、厳しい証券会社にあって「これほどユルくて大丈夫なんだろうか」と思いつつ、配属先はどこがいいかと考えていました。

 

★ ★ ★ ★ ★

 

「それでは、今日は面談をやります。趣旨は配属先の希望を聞くことです」

 

私の場合は配属先の希望をインストラクターに伝える機会がありました。おそらく、会社によって、このような機会を与えてくれないところもあるでしょう。入社した瞬間に配属先が発表され、有無を言わさず強制的に地方に飛ばされるというケースもよく耳にします。

 

もちろん、希望を聞いてくれるといっても伝えたとおりに配属されるとは限らないでしょう。新入社員の側も、流石に100%希望するところに配属されるとは考えていません。むしろ、希望が叶わないことのほうが多いと覚悟しています。とはいえ、機会があるならば活かしたいと思いますし、機会を与えられないよりは与えられたほうがマシだと思います。この点は、「大和証券はいい会社だな」と感じられるところの一つでした。

 

 

しばらくすると私に面談の順番が回ってきました。西岡代理に名前を呼ばれた私は、面談室のドアを開いて中に足を踏み入れました。

 

「おう、増永。お前は営業に行きたいんだって?大学院卒なのにめずらしいな」

 

西岡代理に毎日提出していた日報には「営業に配属してください」という一文を必ず入れるようにしていました。

 

「はい、私は大和証券の社長になりたいと考えています。そのためには伝説的な営業成績を残さなければならないと思っていますので、とにかく営業に配属していただきたいと思っています」

 

その答えに西岡代理は軽くうなずいて質問を続けました。

 

「営業に行きたいのはわかった。じゃ、どこの支店に配属してほしい?」

 

私は、その日のためにどの支店に行くべきかを考えていました。そして、二つの候補を用意していました。

 

「二つあります。本店営業部か渋谷支店です」

 

すると西岡代理は驚いた表情を見せました。

 

「ほう。本店はなんとなくわかる。きっとそれがエリートコースだと思っているんだろう。でも、渋谷支店はどうしてだ?」

 

私はその理由を口にしました。

 

「大学院を卒業したおかげで、私は税理士資格の会計科目を免除されています。本配属されたら、残りの税法科目の試験に合格することで税理士資格を取得したいと考えています。渋谷には税理士資格を取るための大手のスクールがありますので、そこに通いたいと思っています。ただ、理由はほかにもあるのですが・・・」

 

西岡代理はぴくっと眉を動かしたものの、腕組をしたまま顎(あご)で話を続けるよう私に促しました。

 

「二つあります。一つ目は、私は大のB'zファンで、彼らの曲の中に『BOYS IN TOWN』というのがあります。その歌詞の中に『渋谷なんじゃないか』と思わせる情景描写があって、高校生の頃から『いつか渋谷で働いてみたい』と漠然と意識していました。私はその曲が大好きで、もしこの曲を聴いていなかったら関西を飛び出してこちらにくることはなかったかもしれないというほどです。私はこれを機に渋谷を舞台に仕事をしたいと考えたわけです。それから、二つ目の理由は、いま付き合っている彼女が横浜に住んでいるからです。渋谷支店であれば東急東横線で一本で横浜にいけます。横浜支店に配属していただくのも一案なのですが、できればいまお話したすべての望みが叶う渋谷支店に配属していただければと思っています」

 

私は、渋谷支店で働きたい理由を正直に話しました。なぜならば、それが希望を叶えるための一番の秘訣だと感じたからです。

おそらく、同期の中には配属先の希望やその理由を聞かれて、答えが不明確であったり嘘をついたりした人もいるのではないかと思います。しかし、それは得策ではないでしょう。配属する側からすれば、大事な配属先のことを真剣に考えていない人間や嘘をつくような人間を優先的に配属する気にはなりません。

それよりも、「そこに行く必然性」を明確に答えられる人間のほうが、配属後もしっかり働きますし、辛い目にあっても「でも頑張らなきゃ」と粘ります。それに引き換え、「なんとなく東京」と考えている人間や「地方だけは嫌だ」と後ろ向きにしか考えていないような人間は、高が知れています。であれば、明確な理由を持っている人間よりも高が知れている人間の優先順位が低くなるのも仕方がないことでしょう。

人によって「理由」や「こだわり」のポイントは異なると思うのですが、私の場合は「スキルアップや実務の点」と「プライベートの点」を明確にすることで、希望する配属先が「渋谷支店」である理由をしっかり伝えることが出来たと考えています。これで希望通りにならなければ、私が大和証券から必要とされていないか、そもそも配属希望先を聞くことに意味がなかったのではないかと開き直ることにしていました。

 

★ ★ ★ ★ ★

 

清瀬寮に戻ってきてお風呂に入り、歯を磨いて自分の部屋に向かう途中、私は「おい、増永」という敵意が混じった声で呼び止められました。

 

「やあ、亀山さん(仮名)。どうしたのですか?」

 

すると彼は、私の部屋で話をしたいと言い出しました。あまり気乗りはしませんでしたが断るのもよくないかなと思い、私の部屋に彼を招き入れました。

 

「なんでしょうか?」

 

亀山さんは私をにらみつけながら敵意をこめて話し始めました。

 

「増永、お前は生意気なんや!」

 

いきなりのケンカ腰な態度に私は「やれやれ」と思いました。

 

「お前、院卒やからって同期に『さん付け』で呼ばせているやろ。あれ、やめろや」

 

私は別に浪人したわけでも、遊んでいたわけでもありません。また、まじめに大学院に通った分、給料も「3年目」の社員と同額を頂いていました。いくら大和証券の「同期」といえども入社するまでは後輩だった学部卒のみんなに呼び捨てにされて気分がよいはずがありません。私は気分が悪いということを仲のよい同期たちに率直に話をしたまででした。

 

「あれですか?同期といっても私は人生の先輩ですからね。たしかに『さん付け』で呼んでほしいといったけれども、それはごく一部の人たちにであって、その他の人は自主的に呼んでくれているだけです。何か問題でもあるんですか?」

 

もともと『さん付け』を同期たちに徹底することなど出来ないと思っていましたので、少なくとも目の前にいる亀山さんには期待していませんでした。

 

「気に入らねぇんだよ。その先輩面がよ」

 

別にあなたに頼んでいるわけでもないのだからどうでもいいでしょうと思いましたが、自分がいつも一番でありたいと思う亀山さんにとっては、私が周囲の尊敬を集めている或いは尊敬を集めているかのように見えることが許せなかったようです。

 

亀山さんは私よりも二つ年下でした。それにもかかわらず「同期だから」という理由で、わざと私を自分と同じレベルにまで落とすよう策略をめぐらせていました。亀山さんは私以外にも東京大学大学院を卒業した川口さん(仮名)に対しても同様にちょっかいを出していました。残念なことに、川口さんはドジな一面もあったため、亀山さんの陰謀で同期のみんなから馬鹿にされたり、おもちゃにされたりするような存在にされてしまいました。

 

「どうしてこんなに性格の悪い人間が入社できたのだろう」

 

私より優秀であればともかく、明らかに駄目だなと思う人間に限ってこういう態度をとってくるのです。こちらが悪いことなど何もしていなくても、向こうからちょっかいを出してくる・・・。その理由は明白でした。会社がそうせざるを得ない仕組みで経営されていたからです。その大きな原因は、社員同士を競争させていたことでしょう。

競争社会で順位がつけられていると、「自分の実力では絶対に勝てない」という相手に対して、卑怯なやり方で戦いを挑む人間が現れます。おそらく亀山さんは、研修中に同期内での「序列」がついてしまうことを恐れたのでしょう。

「研修中についた同期の序列が、配属後も続いてしまっては、出世争いで不利になるかもしれない」

そう考えると研修中に潰してしまわなければなりません。

彼は彼なりに「ボスザル」のように縄張りを作っていました。「類は友を呼ぶ」ではないですが、彼の周りには彼とよく似た人間が集まって、負のオーラを放っていました。

 

「増永、こんな本を読んでいるのか」

 

彼は、勝手に私の本棚から読みかけの本を取り出してページをめくり始めました。

 

これに対して私は「いい加減にしろ!」と一喝しようかと考えました。しかし、それがもとで会社からの評価が落ちたり、同期からの評判が落ちたりしたのでは意味がありません。亀山さん如きに自分の人生が台無しになったのでは悔やんでも悔やみきれないというものです。

ルールをきちんと守ろうとする私と、ルールなど無視して卑怯なことをやってくる亀山さん・・・この先、彼に限らず彼のような人間がいることを思うと、「真っ当な人間は出世できないかもしれないな」と思わずにはいられませんでした。

 

私はあるとき、「大企業で出世するタイプ」というものがあることに気づきました。そのタイプの特徴を五つあげると/佑紡个靴討聾靴靴⊃佑紡个垢觧廚い笋蠅凌瓦肋なくロジカルでね靴咾茲蠅盪纏を重視しゾ紊紡个靴討話蘋燭鮨圓すというものです。

こういうタイプでなければ厳しい競争社会を生き抜くことはできないのでしょう。

逆に、私が創ったライブレボリューション(以下、LR)では次のようなタイプを求めています。

/妖たりがソフトで⊃佑紡个垢觧廚い笋蠅厚く4脅性が豊かでね靴咾隼纏のバランスをとりッに対しても謙虚な人間。

LRでは、オリジナルの適性検査を開発し、大企業向きな人なのか、LR向きな人なのかを特定できるようにしています。これが「LRの内定者が理想の人材だ」と他の企業からいわれる所以のひとつでもあります。人格的に周りの人から好かれる人だけを採用する方針を徹底することで、人材のクオリティーを維持するよう努めています。

ちなみに、LRには「社内競争」というものが一切ありません。従いまして、大企業向きな人を採用する必要はありません。また、私自身、大企業向きな人の特徴を見て「一緒に働きたい」とは思えません(笑)。ぜひ、大企業向きなタイプの人には、一般的に言われている「大企業」に入社してほしいと思っています。

 

その後、私は亀山さんから研修中に数々の嫌がらせを受けることになります。ところが、こちらは無視するしかありませんでした。競争をベースにした企業では、研修中ですら同期同士の人間関係がこじれるのです。ましてや本配属となり、実際に売上や利益(もしくは人事考課)で順位をつけ始めるともっと酷くなっていくことは「推して知るべし」といったところでしょうか。このような足の引っ張り合いが、競争をベースにした企業では日々繰り広げられています。私はこの研修期間中に「競争社会の縮図」を見たような気がしました。

 

自分で会社を作り、その会社を成長させていくうえで「順位付けなし」「年齢・役職の上下に関わらず『さん付け』『敬語』を徹底する」といったことを制度化したのは、大和証券のこの研修時代の体験に基づいています。

特に後者である「年齢・役職の上下に関わらず『さん付け』『敬語』を徹底する」は、当社に「大学院生」が新卒で入社してくることが決まったときに取り組み始めました。私は、彼に普通の学部卒では経験することのない嫌な思いをさせたくはありませんでした。どうせなら、大学院卒を学部卒の人が貶めるような関係にするのではなく、お互いがお互いを高めあうような関係にしたいと思いました。大学院卒が学部卒の人に対して敬意を持って接することが当たり前の環境になれば、学部卒の人が大学院卒の人に敬意を払うのは簡単です。社長である私が、まだ学生である内定者の皆さんに対して実践することで、この方針を浸透させることが出来ました。

ほかにも「『さん付け』『敬語』の徹底」に取り組む理由はいくつもありますが、「大学院生にも配慮して導入する」という考えを持ち合わせて実践している企業は、この世に当社しかないでしょう。それは大学院を卒業した私が経営しているからこその特徴だと思います。優秀な大学院生が新卒で入社しても安心して働ける職場環境と人間関係をこれからも提供し続けたいと考えています。

 

ところで、世の中には「社員の順位付け」をしている企業がたくさんあるわけですが、私はこのやり方をきっぱりと否定し、まったく逆の経営を続けてきました。つまり、先ほども書いたように「社内競争」をなくしたのです。当社では「メンバー」であろうと「事業(あるいは部門)」であろうと順位付けを一切しないようにしています。

社員に順位付けをしてしまうと、同期の社員同士(に限らず周りの社員たちも)は必ず敵になります。表面上では「仲間だ」といっていても、自分より優秀な人間は、自分の存在価値を脅かす可能性があり、心から信頼したり仲良くしたりすることは出来ません。

しかしながら、企業は業績を挙げるために社員同士の競争心を煽って仲間同士で戦わせています。それでいて経営者が「チームワークを大切にしましょう」と訴えているのをみると、私は大きな矛盾を感じるのです。この矛盾を解消するべく、私は敢えて順位付けをなくし、それでもまわる仕組みや文化を追求しながら経営を続けています。

 

★ ★ ★ ★ ★

 

一ヵ月後、気になる配属先の発表がありました。

 

「みなさん、お待ちかねの配属発表を始めます。さて、どんな風に発表してほしいですか?」

 

西岡代理はニコニコしながら話をしています。

 

既に運命は決まっているものの、実際に発表されるまではまだ希望が持てます。

 

「流石に北海道とか沖縄とかはないよな」

 

当時つきあっていた涼子さん(仮名:当時の私の彼女)と遠距離恋愛になるのだけは勘弁してほしいと思っていました。

 

結局、発表方法はホワイトボードに配属先となる支店をすべて書いて、北海道から順々に発表していくことになりました。一番気になっていた「渋谷支店」という名称がホワイトボードに書かれたのを見て「もしかしたら私かもしれない」と望みをつなぎました。

 

 

「それでは、釧路支店から発表します」

 

 

私の心臓がバクバクし始めました。

 

 

 

「ま、まさか最初に呼ばれないよな・・・」

 

 

 

 

「釧路支店は・・・」

 

 

 

 

「山田(仮名)です!」

 

研修室内がどっと沸きました。そして、大きな拍手が巻き起こりました。

 

発表された山田さんを見ると、涙を流していました。彼は、早稲田大学の卒業生です。おそらく「まさか自分が」と思ったでしょう。後で「配属先の希望を聞かれたときになんて答えましたか」と質問したところ「俺はどこででもやっていけます!」と虚勢を張って答えたそうです。どこでもいいと答えておいて、泣いているのでは仕方がありません。

 

北海道、東北、北関東・・・次々と配属先が発表されていきます。私の名前は未だに発表されていません。

 

 

「次は、東京にある支店を順次発表していきます」

 

 

 

ここからが勝負です。

 

「本店営業部は、北見(仮名)と落合(仮名)の2名」

 

「おおお」というどよめきがありました。本店営業部に配属された二人はおそらく大きな期待を背負った人材でしょう。にもかかわらず、自分がその中に入っていなかったことを少し残念に思いました。

 

「それから本店の投資情報部には川口」

 

予想通り、東京大学大学院を卒業した川口さんは本店の営業以外の部署に配属されました。

 

「次は渋谷支店」

 

運命の瞬間でした。もし、私でなかったらと思うとぞっとしました。

 

 

 

「渋谷支店は・・・」

 

 

 

「増永」

 

 

 

心の中で「よし!」と叫びました。そして、配属先の希望を叶えてくれた大和証券に感謝しました。もし、そのときの配属先が渋谷支店でなかったとしたら、私が起業することはなかったでしょう。実際に私が配属された1999年は、まさにITバブルの象徴「ビットバレー」のブームが到来したタイミングであり、そのブームの中心が「渋谷」だったのです。私の人生はこの渋谷支店に配属されたことで大きく変わることになるのでした。

 

「渋谷支店に配属された!しかも一人だ!」

 

配属先の希望が叶ったこともうれしかったですが、配属されたのが私一人だったこともうれしいことの一つでした。

 

「もし他の同期と一緒だったら、きっと人間関係で悩むことになっただろうな」

 

配属後は基本的に「同期」で順位をつけるため、目の前に同期がいると日々敵対する可能性がありました。その心配から開放されたこと、そして実際に心配するようなことが起こらなかったことは、配属後の私の職場環境と人間関係を素晴らしいものにしてくれました。私は同期の嫉妬に邪魔されることなく、自分自身の独自の持ち味を活かして仕事に取り組むことになります。

 



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編集後記

本日、ある大和証券元役員の方から「増永さんがいつも起業家物語で言っているように」と言われてドキッとしました。まさかお読みになられているとは(笑)。

「いや〜、まさか読んでいらっしゃるとは思いませんでしたので好きに書いておりました」と申し上げたところ、「毎週楽しみにしていますよ。若い方がどのように感じていたのか勉強になります」とおっしゃられていました。

「きっと、大和のみんなも楽しみにしているんじゃないかな。いつか本にするといいですよ」

そのようにおっしゃっていただき感謝しました。私も大和証券を愛しています。大和証券は素晴らしい会社です。そこから学んだことを私は自分の会社の経営にいかしています。大和証券には大企業としてのどこの企業でも抱えている問題はありますが、それを変えていこうという若手がたくさんいます。その方たちの参考になればと思いながら今後も書いていこうと思います。これからもどうぞよろしくお願いいたします。




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