【増永】 最後に御社のビジョンをお願いします。
会社の大義は、Eco&Employment(E&E)です。
リーマンショックのときには、この大義は中途半端だったなと感じずにはいられませんでした。というのも、IT領域をやって、もしこの市場が狭くなればリストラをしなければならないかもしれないという思考に陥ったからです。リストラは絶対にしないと宣言しているので、自分自身の考え方に矛盾が生じてきていると感じました。なぜそう思うのか、しばらく考えたんです。
結論は、既存事業を中心に考えているからだめなんだ、ということでした。なぜITにこだわってきたのか、急にバカらしくなったんです。そこからはITに固執しない思考を持つようになりました。たとえば今度は貸しタオル屋や福島でパン屋も展開する予定です。カフェもやっているし、ITにこだわらずにいろいろな異業種をやっていこうと決めました。
要は、雇用を守るための事業とは何だろうと考え、それまでは既存の事業の中でどれだけ雇用を生み出していくかということを考え続けてきました。
だけどその思考だけでは、いつか限界がくるんです。IT市場がなくなった瞬間に、雇用を作り出せなくなる。そうすると、これまで自分が宣言してきたこと、決めてきたことがまったく変わってしまう可能性が出てくると。
雇用を生み出すためにどんな事業を展開すべきか・・・発想を逆転させれば、別にITである必要はないことに気付きました。そうすると、事業の多角化になりますよね。
一般的にはできるだけ資源を集中させる、いわゆるコアコンピタンスという言葉がありますが、その真逆をいくことになります。だから私にとってこの展開は、挑戦でもあるのです。
この会社の経営自体も、MBAと真逆です。いわゆる戦力外とされている人たちを積極採用していますから。集中と選択の逆・・・幅広く全てやる、それは雇用のために。雇用の安定を図るためには、衣食住をすべてやって、そして社員が安定していけばいいわけです。
4月2日の朝礼で、私が社員に話したことがあります。それは、1年リスク、3年リスク、6年リスクです。
1年リスクというのは、2013年にはいろいろな問題が起こることを想定して、そのいくつかの問題について説明しました。この問題が起こることで、こうしたことが想定できる。だけど1年後のリスクは、こうした理由によってすべてヘッジできているから、安心してほしい。
3年リスクについては、これは今からヘッジしておかなければならない。だからこういうことをやっていきますよ、と説明。
そして6年リスクは、これから3年をかけてみんなで準備をしていこうという話。
全社員とリスクを共有することで、同時に準備をすることにもつながります。何かあったとき、たとえば震災が起きたからといってリストラを実施するのはおかしい。震災が起こることも含めて考慮して雇用を守ることが本来、企業がすべきことであり、震災が起きたからリストラだなんて、私には単なる言い訳にしか聞こえません。
震災に限らず、経済危機がくることも想定して、今から準備することは重要なことです。これをみんなにメッセージとして送っています。
そのためにはどんな事業を展開するのか・・・先ほど申したような「カフェをやります、貸しタオル屋やります、パン屋をやります」なんて社内で突然言い出したら、普通の社員は「え??」と理解できないと思うんですよ。
さらには、障がい者雇用は5年の間に1,000人にしていきますとか、国内展開を141拠点にして、海外34カ国進出を展開していく。これらを実際に予定しているのですが、これを聞かされた社員は、「社長はとうとう頭が狂ったのではないか」と思うかもしれません。
だけどそれぞれにきちんとそうすべき理由があって、それを社員に丁寧に説明しているので、みんなの理解力は早いです。
この「そうすべき理由」のいちばんのポイントは、「雇用の維持」。今は働けていることにさほど何も感じずにいられるかもしれません。だけど危機になったとき、この方針は社員にとって大きな支えとなります。
実は当社の離職率が2012年の時点で前年に比べ減り、一方で入社の人数が5倍くらい増えているんです。この結果はやはり、会社自体に社員からの信用がついてきている証拠だと思うんですよね。
私は、危機のときこそ会社の信用力が影響すると思うのです。たとえば会社が危機になれば、人は離れていくじゃないですか。いいときに頑張ってない人は、悪くなったときに頑張れるかというと、頑張れません。いつも腕立て伏せをしている人はいつでも腕立て伏せをできるけど、普段トレーニングをしていない人がいざやれと言われても、簡単にできるものではありませんよね。これと同じです。
だからこそ、1年後、3年後、そして6年後のリスクを全社員で共有し、今からできること、準備すべきことを伝えていきます。これを実践していけば、必ずこの会社はさらにいい会社に成長できると思うんです。
● そこまで考えるようになったきっかけはありますか。
就労困難者がいることがきっかけですね。そういう社員がいることで、こちらも普段気付けないような配慮をするようになります。自分自身の中にこうした心が芽生えてくると、会社全体も変わっていく―そう思うんです。
だから今この会社をつぶすわけにはいきません。この会社でしか勤められない人がたくさんいますから。そうすると、今すごく会社は絶好調だけれど、そこに安心していてはだめだということにも気付きます。
普通は絶好調になると、まず経営者は動かなくなりますから(笑)。
そうではなくて、今後に備えて準備・蓄積をしていくことが、多くの雇用を守ることでもあり、私がやるべきことなのです。
どんなことが起きても、つぶれない会社作り・・・私にとって大きな課題でもあります。
【完:5/5】
次号:株式会社エポック・ジャパン 代表取締役社長 高見 信光 氏