【増永】 浜野社長のこれまでの経営で、特に注意している点はございますか。
行き当たりばったりではなく、「この会社は何のために企業活動をしているのか」―いわゆる企業理念を明確にして、それをもとに事業展開することに徹してきています。
企業理念に反したことをやってしまうと、社員は「社長は思いつきでやっている」と思ってしまいますから。
世の中には、「金属加工屋をやりつつも、知人が不動産をやっていて儲かっている。じゃあ、うちも不動産業をやろう」、なんていう経営者はいくらでもいます(笑)。それが間違っているとは思いませんし、企業理念に即したことであれば問題ないと思います。
だけど目先のこととか行き当たりばったりで動いてしまうのは、経営者としては間違っていると思うんです。自分だけならいいですけど、従業員がいるわけですから。彼らもそれぞれに考えているわけで、そういう行動が出てしまうと不安に思いますよね。
だからこそ、会社の目指す方向性や理念を明確にして、それをベースに事業展開や設備投資をしていく。企業の1つのストーリーが組み立てられていて、かつそれを社員に見せることに重きを置いて経営をしています。
あとは、私たちのような小さな会社は、何をやるにしても社長が先頭を切ってやっていくべきということ。
中小・零細企業で「こういうことをやろう」と言い出しても、長続きしないとかそんな声を多く聞きます。これについては、9割が社長の責任であると私は考えているんです。継続せずに崩れるときも、多くは社長からなんですよ。「こんなことをやろう」と言っても、いざというときに他人に任せて自分は現場にいない。こうして人任せになってくると、物事は継続しません。
だからこそ、私たちのような規模の会社では、何をやるにもまずは社長がルールを守って徹底してやり遂げる。これを意識してやっていかなければならないと思っています。
それから「顧客満足度」という点にも、注意しています。同じように大切にしていると言っている会社さんはたくさんありますが、やはり真の顧客満足度―お客さまに良いものを提供することを徹底されて、さらに実践されている会社さんというのは、なかなか多くないように思います。
製造業であれば、製品だけではなくてサービスまで含めてより良いものを提供しなければなりません。固定概念に捉われることなく、常に考えていかなければならないのです。外的環境は、今ものすごいスピードで動いています。その中で、きちっと仕事をしていくには、時代の流れを見極めなければならない。これらの点を心がけて、経営をしています。
● 経営理念に即した経営を徹底されているとのことですが、具体的にどのようなことを実践されているのでしょうか。
教育訓練制度や評価制度などですね。これらは、きちんと経営理念に伴う1つの軸ができているので、社員にとっては「新しく始めよう」と言えば、大きな戸惑いもなく受け入れやすいようです。一方、行き当たりばったりその場かぎりでやっていると、そうもいかないでしょうね。
● 御社独自の制度について教えてください。
そうですね、先ほどご紹介したブログ形式の日報もそうですが・・・製造業の基本とも言われる「整理・整頓・清掃」―この3Sについての取り組みを見える化しているのは独自かもしれません。
たとえば物を片付けましょう、廃棄しましょうといったとき、何もしない状態だとこうだったけど、実際に片付けをしたらこんなにきれいになり、さらにこの状態になるまでにはゴミ袋何袋分も使いました。とか、そういう過程をビフォー・アフターとして写真で見せることで、実際に起きた事象や効果を社内で共有できるようにしています。
そうすると、一般的に言われる5S・・・先ほどの3Sに「清潔・躾」がついてくるという考えです。
何かするごとに、ビフォー・アフターを見える化していくことで、費用対効果なども見えてきます。これらはチーム制で実施していて、1チーム5人くらいで組んで、何かしらの形で自分たちのやった成果を壁に張り出していくんです。
それらを見た他のチームは、フェイスブックの「いいね」ボタンのように、「やるね」シールを貼っていきます。このシールが多いチームを表彰する制度もあるんです。
これはまだ実現予定の話ではありますが、近い将来、人事査定は自分自身でやってもらうという仕組みにしたいと考えています。もちろん、他人からの評価も含めますが、まずは自分自身の査定をやってもらおうと。
● 現在は、浜野社長が実施されているのですか。
実際に私自身は社員の査定をしていません。採用についても従来は自分で募集をかけて面接をして、採用をして・・・という流れだったのですが、採用も人事査定もすべて若い人材に任せるようにしたのです。
なぜかというと、給料というのはそもそも社長が決めることではなく、社員が決めるべきだという考えがあるからです。
社長が決めていると、結局は社長の会社になってしまうんですよね。だけど社員にとって、仕事をする場というのは人生の時間の多くを費やしている場でもあり、しかも生活がかかっている。だからこそ、みんなの会社であるという意識があるはずです。
そうした考えから、社長が独断で評価したり給与を決めるのではなくて、みんなで決めていくことが当たり前のように私は感じるのです。
あとは、一緒に働いている仲間、そしてお客さまのためにどれだけ尽くすことができるか・・・こうしたことの大切さや必要性を感じて、自ら動いてほしいと思っています。そこで、社員一人ひとりがそうした働き方を意識できるような社風に移行しているところです。
● 「お客さまのため」というキーワードが多く出てきていますが、それはたとえば、現場ではどのように浸透していて、実際にどういう形で実践されているのでしょうか。
製造現場としては、それは「納期と品質」を指すことになります。現場の彼らが仕事をする中で、お客さまに直結する部分はここが一番大きいですから。
言葉だけを聞くと何となく機械的な感じもしますが・・・日本人だからこそなせる業として、ここにちょっとした「心遣い」が加わるんですよ。
完成した製品をダンボールに入れて、お客さまの元へ納品します。しかし、ダンボールを見ただけでは、中に何が入っているのかわかりません。そこで、現品票というものをつけるんです。箱の中身を記載するわけですが、ここまではどの会社さんもやっていることです。
じゃあ何が違うのかと言うと、当社の場合は「いつもご注文をありがとうございます」といったひとことを添えたりしています。1つひとつは小さなことのように思いますが、現場ではいろいろと工夫しているんです。
あとは納品したとき、どうすればお客さまがダンボールを開封しやすいか、検品しやすいか―そういうところまで考えて、モノを作ったり納めていたりしています。
数年前に、海外のメガネフレームを作っている企業に視察に行ったんですね。彼らは世界一のメガネフレームの会社になるんだということを掲げていました。そのための世界戦略のキーワードが3つあり、それは「ドイツの品質、中国の価格、日本のサービス」でした。
このキーワードからも分かるとおり、世界のスタンダードは日本の技術ではなくてサービスなのです。日本人じゃないとできないサービス。これこそが、日本が世界に誇れる、本当の技術だと思うんですよね。技術力はもちろんなのですが・・・絶対的に他国から真似できないのは、サービスだと思います。それはちょっとしたことでいいと思うんですよ。そういう心をモノ作りにも入れていくべきだと、私は思います。
● そうしましたら、好きな言葉を教えてください。
ケンタッキーフライドチキンの創業者である、カーネル・サンダースの言葉になります。「他の人に一生懸命サービスする人が、最も利益を得る人間である」という言葉を残しているんです。
● 最後に、御社のビジョンをお願いいたします。
浜野制作所はモノ作りをはじめて35年目を迎えましたが、これからもモノ作りを通じて人を育てたり、地域に貢献したりと、人のお役に立てるようなそんな会社になることをビジョンとしています。
そしてこの会社で働いてくれている従業員も含めて、ただ給料がもらえるから働いている―というのではなく、会社や仕事をとおして自己成長ができる場を提供していくこと。さらには、個々の夢を実現できるような会社であること。
きっと入社するときは、それぞれに夢を持っていると思うんですよね。それらを浜野製作所というこの場所で叶えてあげたい―そう強く思います。これらが、私たちのビジョンです。
【完:5/5】
次号:株式会社アイエスエフネット 代表取締役 渡邉 幸義 氏