【増永】 これまでさまざまな経営判断をされてきたと思いますが、現在の成功につながっていることがあればぜひ教えてください。
自ら営業をしていたとき、顧客を増やすためにはどうすべきか―ということに悩みました。そのときは3つの選択肢が自分の中にあったんですね。1つは「価格を安くすること」、次に「難度の高い加工をすること」、そして3つ目が「納期を短縮すること」でした。そして私は3つ目を選択したのです。
そもそも選択したというよりも、ニーズが一番多かったというべきかもしれません。父親の仕事をそのまま引き継いでやってきましたけれど、各企業の生産拠点が海外に移るなど、時代の流れが急速に変わってきました。
当時は私たちのような小さな工場には、どの企業さんもなかなか仕事を出してくれません。自社工場を構え、品質の保証やら生産の効率などを図れた環境にしてようやく、選択肢の1つとして見てもらえる、そんな状況でした。
このままでは、仕事を増やすことができない・・・であれば、仕事が取れる保証はないけれど、工場を作ろうと決めたのです。そして小ロットや設計試作、精密板金という新たな分野にも対応できるようになりました。2000年ごろの話です。
工場を作ってしまったからには、当然のことながら支払いが発生しますよね(笑)。だから何としてでも仕事を取って売上げを上げなければなりません。しかしながら精密板金という分野への参入はかなり遅れをとっていたので、すでに競合社が山のようにあるんですよ。目新しさもないですから、営業しても「浜野さんのような会社とはすでに取引していて、そこで十分だから」と断られ続けました。
どこに行っても同じように断られ、これが数ヶ月続いたのです。こちらも必死だから繰り返し繰り返し同じところに営業にまわりました。するとあるとき、「実はね・・・」といつもは断られるパターンなのに、ちょっと反応が違ったんですよ。「ちょっとこの図面見てよ。これ、2週間でできる?」と言われました。
こちらとしては、「できます」と答えるのですが、なぜ取引している工場があるにもかかわらず、私たちに聞いてきたのか不思議に思いました。確認してみると、「みんな希望納期での対応ができなかったり、できるけど社内調整が必要になるとか・・・スムーズにいかないんだよね」ということだったんです。
結局、「希望納期対応の有無」については、その他のお客さまも同じように悩んでいたことが分かりました。お客さまの要求が何であるかが分かったからには、この部分を解決していけば後発の私たちにも仕事を任せていただけるはず・・・そういう期待と確信をもって、「短納期」という道を選んだのです。
● 短納期での対応に注力することになり、いろいろと社内体制を変えられたこともあるかと思いますが、どのような苦労がありましたか。
「人材」ですね。私たちのような中小・零細の町工場になると、来る人材も限られてきます。当時、採用にかける予算もないので、ハローワークを頼りにするしかありません。だけどなかなかこちらが求めている人材と一致することは、難しくて・・・。
以前なら経験者優遇で採用していたものの、時代が変わってくると、会社も従来のやり方を変えなければならないときがきます。それが短納期という選択肢だったり、品質の向上だったり、さまざまです。こうした改革の話をすると、経験者である職人さんたちは自分たちのやり方を変えたくないので、新しいことに挑戦することをなかなか快くは受け入れられないのです。
その気持ちも十分わかります。今までやってきたことをやるのが、誰だって一番楽ですからね。しかしながら、そう思っている人たちが社内に3人、4人もいれば、社内はまとまりません。まずはここを統一する必要があると強く感じました。
そこで、改革のひとつとして未経験者まで採用の枠を拡げたのです。要は、頑として会社の方針を聞かない15年、20年選手をこれ以上何人も集めたって、モノは作れてもお客さまにより良いサービスを提供する、という私たちの最終的な目標を達成することは難しいと考えたからです。
どういう方針でやっていくかということを会社もきちんと示して、それを理解してくれる人たちでやらなければ意味がありません。たとえ今すぐそれを実現できなくても、いいんですよ。理解して、一緒に前に進んでチャレンジしてくれる人がいれば、経験は関係ありません。そういうスタンスで臨んだのです。
● 新たな取り組みについては、浜野社長が率先してやられるのでしょうか。
そうですね、私が中心となっていましたが、なかなか厳しかったですよ(笑)。新しい取り組みについて職人さんに話をしても、先ほどの話のとおりものすごい抵抗があったりします。それでも私が強引に始めると、目の前では文句は言わない。だけど実際に現場を見ると、これまでどおり自分のやりやすいように進めていたりしていました。
もちろん四六時中、私が現場についているわけでもないですから、そういうことが往々にして起きてしまっていたんです。いくら口で説明をしたところで、彼ら自身がその必要性を感じないと、残念ながら改善はされません。
● 思うように改善を進められなかった中、どのようなことを感じましたか。
新しいやり方を、従業員みんなが受け入れられるような社内体制にすることが、非常に大切であるということですね。
当時は新たな取り組みとして生産管理システムを導入。そしてその他にもいくつか取り組んでいきました。
だけど、単にシステムを導入しただけでは意味がありません。最終的にはお客さまにより良いサービスを提供できればいいだけで、システム導入の有無は関係ありませんからね。ここを理解していないとだめなんですが・・・最初は新しいシステムを使っていることに満足していたのも事実です。
そもそも、どういう考えをもってやっているのかを社内全体に根付かせるためには、システム云々よりも、企業文化や風土を変えていくのが最優先である―当時はそう強く感じました。
【続く:3/5】