【増永】 過去の経験も含めて、経営者としてこれまでに学んだ「ベンチャー企業が成長するための経営哲学」などあればぜひ教えてください。
個人的な見解となりますが・・・何が大事かと問われれば、それは「ビジョンと構想力」だと私は思います。
日本も全体的にはベンチャー企業の数は多いのに、シリコンバレーのような大きな成長をしている企業は非常に数少ないじゃないですか。そんな状況ですから、まずは日本からAmazonのような会社を作っていかなければならないと思います。
そのためには何が今、問題になっているか。それはビジョンと構想力だと私は感じているんです。日本国内にいれば、大きなことを言う必要もないし、そもそも思考すらしてはいけないような・・・そんな風潮が日本にはあるような気がします。
今現在、日本そして海外で成長・活躍されている経営者は従来の日本人の型を破っているようなタイプだと思いませんか(笑)。本当に成し遂げたい−そうした想いが非常に強くて、その想いを大切にしているからこそ、優秀な人材が集まると思うんですよ。つまりはビジョンを打ち出すことで、同じ方向に向かってくれる人が集まり、想いを実現していくというわけです。
日本からはそうした経営者、会社を創りだす必要があるのではないでしょうか。
もう1つ大事なのは、人材です。幸い今でこそ、私は恵まれた環境におりますが、やはり一からベンチャー企業を立ち上げるとなると、想像をはるかにこえるような苦労があります。だからそれを一緒に乗り越えられるような、優秀な人材が集まらないとなかなか厳しいと思います。
社内にそういう優秀な人たちが集まれば、新たな人材の教育にもなるし鍛えられますしね。
そして最後に大事なポイントとして挙げるのは、資金力。
感覚値の話になりますが、シリコンバレーと日本のベンチャー企業とでは、資金力に10倍くらいの開きがあるんですよ。仮に私たちがこの事業で1億円を調達できたとしたら、シリコンバレーでは10億円ぐらいの感覚・・・もしかしたらそれ以上かもしれません。だからそもそも、話にならないのです。
特に技術開発が大きく関わってくるとなると、まず最初にお金が必要になります。売上げが立つ前に、初期費用がかかるわけですよ。そこに大きく投下できる資金があるかどうかが、その会社の明暗を大きく分けるわけで・・・この仕組みがきちんと確立されていないと、シリコンバレーのようなベンチャー企業は日本から生まれづらい環境のままでしょうね。
この状況をどう解決すればいいのか、私なりの解釈でいくと、外から調達すればいいのではないか−となります。当社は現在、国内にかぎっての資金調達に留まっていますが、海外への接触機会はあるので、積極的に海外ファンドを受けるのも1つの策だと思っています。
そうしたダイナミックな動きができるようになれば、日本のベンチャー企業にだって飛躍の機会はあるのではないでしょうか。
その成功事例として挙げるのは、ベタープレイスという会社です。これもシリコンバレー発でEVの充電ネットワークを提供されている会社なのですが、彼らは香港のHSBCやモルガンスタンレーから、600億円もの資金を調達しているんです。
金額そのものも日本とは桁違いで驚きなのですが、さらに驚かされるのは、今現在ほとんど売上げのない状況であるということ。「本当にそのビジネスモデルはうまくいくのか」と疑問を持ってしまうようなビジネスモデルを掲げているのです。
日本支社があり、国内でも実証実験が行なわれたそうですが、ガソリンスタンドのような場所に電池が用意されていて、電池交換作業を自動で行なう−そんな事業内容なんですね。
まず1台機械を準備するのに4,000万円。しかも日本国内でのEV需要はまだしばらく時間がかかりそうじゃないですか・・・設備投資した分、いつ回収できるのか。あまり現実的ではないビジネスモデルであるにも関わらず、実際に600億円を調達しているのは本当に凄いと思います。日本じゃまず無理ですよね。
● では徳重社長が経営するにあたり、特に重要視されていることを教えてください。
シリコンバレーからの影響がとても大きく、とにかくスピード重視。そしてパッションとロジックの精神を大切にしています。
まずはやってみる−という考え方も大切ではありますが、だからといってむやみやたらに手をつけるのではなく、仮説を立ててロジック思考で説明できるように考えて取り組むとか・・・会社の立ち上げ時というのは、どうしてもパッションの方が強くなりがちだと思います。それも大事にしつつ、論理的に物事を考える力を備えていけば、バランスがいいのではないでしょうか。そうして考えたことを、スピードをもって実行する。
社員によく言っていることは、「とにかく結果にこだわれ」ということです。社内には大企業を経験した人材も多くいますが、一緒に仕事をしてみるとやはりどこか緩さがあったりするんですよね(笑)。特にコスト感覚はベンチャー企業のほうがよりシビアですから。あとは時間意識も緩いかもしれません。ROIに対して、当然私たちは厳しくしているので、このあたりについては大切さをより深く理解してもらえるように日々口出ししています。
あとは仕事もどんどんみんなに任せているので、その分営業会議とかでは私は口うるさく言っているんです。だけどみんな非常に成長意欲が強いので、私に言われることもきちんと吸収して結果につなげてくれていると思います。そこは感謝ですよね。
● 一般的にはベンチャー企業で働く社員の方は、独立志向が強いという話もありますが、御社ではいかがですか。
そうですね、将来的にはみんな独立したいという意向はあるようです。だけど今すぐ、という話でもありません。
シリコンバレーでもよく言われるように、スピンアウトの歴史が繰り返されているんです。HPとかゼロックスPARCとか、インテルの基となったフェアチャイルドセミコンダクターなど、それぞれから独立・細分化されて今ある企業につながっているという事実があります。
こうした事例のように、将来的には各人がTerra Motorsから独立して、プロフェッショナルなアントレプレナーが日本にも増えていく、彼らにはそうなってほしいと思うんです。だけどまずは10年ぐらいかけてTerra Motorsで鍛えてもらい、ノウハウも資金力も身につけるべきであると考えます。独立はそれからですね。
● では、徳重社長の好きな本を教えてください。
『
坂の上の雲』です。ストーリー自体が壮大なプロジェクトになっていると思います。これはシリコンバレーのスタイルにも通じているように感じ、今私たちが始めていることにも通じているんです。個人的な解釈になりますが、大切にしていることとして挙げた「パッションとロジック」は、「起業家精神と戦略的思考」につながっていて、これらは今の日本人には欠けているように思うんですよ。
だけどこの本の時代である日露戦争時は、自国の10倍以上もの規模がある国と戦うわけです。どう考えても「負ける」という結果は免れないわけで、国が潰れてしまうかもしれない・・・という危機感とかが国中にあったと思います。それでも、可能な限りどうにかしなければならない−そのための戦略を、当時の日本人はきちんと練っていました。
たとえば、少しでもロシアにダメージを与えられるように資金調達を実施したり、アメリカに仲裁に入ってほしいということを戦略的に展開していたようです。
またアメリカ国民を味方につけるため、今でいうプロモーションを行なってアメリカからの支持を得るような戦略も立てて実施していました。
資金調達やプロモーション、そして戦略、すべてにおいて200%の力を出して戦っていたのです。これら1つでも欠けてしまっては、勝機は得られなかったのではないでしょうか。どちらの国もそれぞれに疲弊とかあったと思いますが、さまざまな事情を抱えながらも引き分け以上に持っていけることができたのは、もの凄いことだと思うのです。
私たちが目指しているのも同じで、製造と営業とファイナンス・・・どれ1つ欠けても目標を達成することはできません。
● 好きな人物は誰になりますか。
山口県出身なのですが、同郷の吉田松陰ですね。吉田松陰は、幕末維新の中心となるような人材育成をしていましたが、それに倣い経営者として私が社員に教えていることがあります。
「Terraの寺子屋」と呼ぶ人もいますが(笑)、アントレプレナーとは何なのかといったことを自分の経験も踏まえてできる限りリアリティをもたせて教えているんです。次に続く人たちが今よりももっと大きなビジネスをやってくれるかもしれない、そんな期待をこめています。
● 好きな言葉を教えてください。
吉田松陰の言葉で「時代の変革は情熱と狂気によって成し遂げられる」になります。
今のTerra Motorsがやっていることは、従来の日本人的感覚から言えばあり得ないようなところなんですよ。相当の忍耐力や意志の強さとかが必要になると思いますが、さらに明治維新の頃に見られたような「突破力」が大切です。これが吉田松陰の言葉に当てはまっていて、私たちも体現すべきことであると思っています。
● 御社のビジョンをお願いいたします。
日本からスケールの大きい会社、しかもグローバル展開できるようなベンチャー企業の成功事例を担いたいと思っています。
特に日本は閉塞感が立ち込めていて、優秀な人材は海外へ流出しているのが現状です。それを思うと、非常にもったいない・・・。大企業の組織のしがらみで機能できていないとか、そういう人たちを解放することで成功事例もどんどん増えていく−そう考えています。
その先駆者になれるような企業として、成長を目指したいですね。
あとは顧客視線から言えば、排気ガスで空気汚染が進み、さらにはガソリン代も高いなどの環境で困っている東南アジアを中心に、私たちの商品がそのソリューションの一部となり、快適な暮らしを提供できるような、そんな提案をしていきたいと思っています。
● 最後に、日本でベンチャー企業を興して頑張っている経営者の方にメッセージはございますか。日本で頑張っているベンチャー企業はたくさんあるかと思いますが、プチ起業ではなく、もっと世界を見据えた展開をぜひ考えて実行していただきたいです。
そのためには、人もお金も必要になり、そこに躓いて諦めたくなるかもしれません。だけどそこで諦めないでください。世界には、その壁を突破している企業がたくさんあります。
先ほど事例紹介したように、日本国内に固執するのではなく、外に目を向けて資金調達する方法だってあるわけです。そのあたりを考えていけば、おそらく活動の幅も広がるのではないでしょうか。ぜひ一緒に頑張りましょう。
【完了:4/4】
次号:株式会社オロ 代表取締役社長 川田 篤 氏