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【増永】 環境的にもメリットの大きい事業であると思いますが、既存の自動車大手企業などが参入してくるリスクなどはないのでしょうか。
どちらかというと、既存メーカーさんはやりたくないんですよ。というのも、従来のエコシステムや仕組みが利かなくなるというのが影響しています。
たとえば、2000年のブランドランキングではグローバル企業としてコダックがランキングに入っていました。ところが今、ご存知のとおり破産申請をする事態になっています。たった10年ほどで取り巻く環境は大きく変化しているのです。
コダックだって、フィルムだけでなくデジタルカメラの技術においては競合他社に太刀打ちできる機会はいくらでもあったと思うんです。だけどそれができなかった。なぜなら既存のフィルム事業とカニバる可能性があったからです。
日本国内に目を移してみると、たとえば富士フィルム。社名どおりフィルム事業がメインだったわけですが、コダックと大きく異なるのはメイン事業以外に化粧品などの新しい事業を生み出したことです。
では私たちの事業に話を戻しますが・・・エンジンと電池はまったく別ものです。既存の自動車メーカーさんや二輪車メーカーさんが同時並行で本気でEV市場に参入するとなると、何が起きると予測できますか?まずはエンジン設計士の大リストラでしょう。そうしないと成立しないですからね。
しかも中核をなしている事業だから、資金も人材も設備も全力で投資していたわけです。それが不要になり、外から新しいモノが入ってくる・・・こうしてビジネスモデルが大きく変わるので、従来のやり方では上手くは回らないでしょうね。垂直から水平への転換は大企業ほどやりづらいと思います。
しかしそうは言っても、アメリカや中国のベンチャー企業に目を向けると状況が違います。日本のメーカーがガソリン、ハイブリッド、プラグインと順を追って参入しているのに対して、他国は順番をすっ飛ばしていきなり最終形にくるわけです。
私たちが勝負すべき市場−二輪車の場合は、日本のメーカーがすでに勝ち組なんですよ。世界的にもシェアは高く、現時点で非常にうまくいっています。だから既存の大企業がわざわざドラスティックに・・・たとえば松井証券さんみたいに、「営業をなくしてインターネットのみで展開する」といった手法をとるのは、なかなか難しいでしょうね。当然、今も起きていないし、今後も起こりにくいと思います。
だからこそ、この市場にビジネスチャンスが眠っていると信じているのです。
● 御社が取り組まれている電動スクーターは、実際にどのくらい需要が高まっているのでしょうか。
最近は東南アジアへ行く機会が多いのですが、現地に行って日本へ戻ってくると実感するのが、空気が透明であるということです。
行ったことがない方でも、ホコリっぽい空気の映像なんかをテレビで目にしたことがあると思うので、イメージできるのではないでしょうか。目の前がちょっと白っぽくて、日本と比較すると本当に空気が違うのです。
そうした環境もあってか、たとえばフィリピンでは今年に入ってニュースにもなっていますが、アジア開発銀行の支援により、大気汚染の防止や温暖ガス排出削減を目的とした、電動の公共交通車両の導入を本格化しています。こうして国レベルでの対応になってきているのです。
そもそも新興国ではガソリン代が高く、さらに富裕層の間では大気汚染やエコという観点もプラスされ、「EVがいいね」という流れになってきているんですよ。
● 今のお話を伺っていると、日本よりも東南アジア諸国のほうがニーズは高いようにも感じますね。
日本よりも注目度も含めて意識は高いと思います。
先日フィリピンを訪れた際にタクシーに乗車したのですが、試しに運転手さんに「エレクトリック・トライシクル(3輪電気自動車)を知っているか」と聞いてみたんですよ。そうしたら、多くの方は「知っている」という反応でした。それだけフィリピンの国では認知度が高くなっているということです。
● 他に海外ではどのぐらい普及しているのでしょうか。
急成長を遂げているのが中国です。10年間で電動二輪車の市場は約100倍にもなっているんですよ。
2000年にはすでに25万台以上の販売台数をたたき出していました。ちなみに現在の日本のガソリンバイクの年間販売台数は30万台。だから当時ですでに、ものすごい普及だったと言えるでしょう。さらに今現在の中国市場は、年間の売上げ台数が2,500万台にまで成長しています。なんと、ガソリンバイクの比にならないほど売り上げているのです。
日本ではあまり認知度は高くない中、お隣の中国ではものすごい勢いで普及しているわけです。もちろん中国は広い国ですから、全エリアとは言えませんが・・・たとえば上海に行くと分かりやすいかもしれません。
街中を走る乗り物の多くは、ほとんどエンジン音なしで静かなのです。つまり電動ということです。だから逆に、ガソリンバイクが走ったらエンジン音が目立ってしまうような状態になっています。感覚としては、道路を走っている乗り物の7割ほどが電動ではないでしょうか。
● 日本と比較すると一般家庭への普及は非常に早い印象ですが、充電はどのようにするのですか。
家庭用のコンセントで十分に充電できるようになっているので、特別なハード設備などは必要ありません。だから外出先から帰宅した際にスマートフォンを充電するような感覚で、電動スクーターの充電が可能なのです。現状の電池のタイプであればフル充電に7時間ほどかかりますが、近い将来リチウム電池にシフトすれば、3時間程度に短縮することができます。
ただ課題のひとつとして、充電そのものにも難点があるのです。家庭用コンセントで充電はできますが、そもそもスクーターを家の中に持ち込まないと現段階では充電ができないんですよ。
だから、マンション住まいとかになると難しいですね・・・現在使用しているのは鉛電池で、取り外すと28kgにもなります。けっこうな重量になるので、これを持ち運ぶのは効率的ではありません。ただ今後の電動スクーターの普及を考え、大きな課題であることは認識しているので、電池メーカーさんと一緒に取り外しのきく、軽量化されたリチウム電池を開発中なのです。
会社の行動指針にもつながってきますが、とにかく日々進化していくことを意識しています。最初から100のことはできないけれど、やってみながら改善をかけて不足しているものを補っていく。常によりよいものを追求して市場の先を見据えて走っていれば、ユーザーのニーズだとかも必然的に掴めるようになり、さらなる改善につながっていくはずです。
● 課題を抱えつつも海外では普及しているということですが、日本の同業他社はどのくらい参入されているのですか。
中国では一部入られているようですが、市場の割にはそれほど積極的に展開されていません。先ほども申し上げたとおり、なかなか本格的にはやれないと思いますよ。
私も最近になってよく分かってきたのですが・・・電池そのものが非常に難しいんです。ざっくり言うと、電池は材料工学という分野でエンジンは機械工学。これらはまったく別ものとして捉えるべきものです。だから、エンジンから電池へのシフトに伴い、人材を一から育て上げる苦労も発生するし、結局他社との合弁会社を立ち上げることによって対応せざるを得ないわけです。
こうして、大手企業ですらなかなか成立させるのに難しいビジネスモデルを要する市場であり、未だ成功を収めている日本企業はありません。だからこそ、私たちはそこに参入する価値、そして面白さを感じているのです。そして私たちが成功することによって、日本の新しい成功モデルを創出していきたいと思っています。
それはたとえば、日本の携帯電話においても同様のことが言えます。フィーチャーフォンでdocomoのiモードが全盛となりましたが、今ではスマートフォンへのシフトチェンジが影響し、iモードという言葉は時代や技術の変化とともに使用されなくなりました。
いわゆる、垂直統合から水平分業への変化ともいえます。つまり、水平分業のビジネスモデルは、いかにうまく世界中に自分たちの企画力で商品や技術を持ち出すかということ。
Appleでもタッチパネルやその他多くの技術は、Appleが開発した独自のものではなく、もともとはベンチャー企業から誕生している技術なのです。ただAppleは、「こういう技術があれば便利だ」という考えがあって、その技術を探した結果、ベンチャー企業の技術にたどりついたという経緯があります。これこそが、水平分業の特徴なのです。
一方、垂直統合の考え方は、まず研究所かどこかに技術があって、それをどう活かしていくかを社内で検討していくというやり方になります。ここがまるっきり異なるんですね。
分かりやすくAppleのやり方を事例として挙げていますが、これがいいか悪いか白黒はつけられません・・・ただ結果として、外から技術を持ってきても完成品としてまとめ上げているわけです。
このやり方に対して、どちらかというと日本の企業は慣れていないのだと思います。そもそも、商品のコアとなる部分を他に依存していいのか−そう考えるのが一般的ではないでしょうか。これが日本の大手メーカーのトラディショナルな点とも言えるでしょうね。
しかし私たちのようなベンチャー企業は、捉え方が少し違います。私がシリコンバレーに5年いたこともあり、向こうでのやり方・考え方についてはある程度理解しているつもりです。だから同様の手法で、成功事例を出していきたい−これが私たちの一番のモチベーションでもあります。
● 余談となりますが、今のお話から世界において日本企業が若干の遅れをとっているようにも捉えることができますが、それについてどのように考えますか。
すでに大企業となってしまった日本の企業に、新たな期待をするのは難しいように個人的には考えます。
海外ではどうかというと、大企業がすべて成功しているとはいえません。むしろ今、企業の新陳代謝が起こっているんですよ。それに比べて、日本では新陳代謝が起きていないのが一番の問題でもあり課題でもある−私は、そう考えます。
この新陳代謝を本来起こすべきなのは、ベンチャー企業だと思うんですよね。だからこそ、ベンチャー企業を起点とした新しいビジネスモデルを生み出せれば、周りからの支持も変わって、新陳代謝を起こすきっかけにつながるのではないかと思います。
これまでの歴史を見ても、日本は技術的にも素晴らしく、いろいろとチャンスはあったと思うんです。だけどそれを活かしきれず、結果的に市場は大きくなってもシェアを落としていくという事態が発生してしまっています。
太陽光パネルにおいては、最初はすべて日本企業が市場を独占していたんですよ。だけど今では日本企業の名前はほとんどなく、海外企業にシェアを奪われているのが現状。こうしたことが、エレクトロニクス産業で起きているのです。たとえばサムスンにおいては、2003年くらいにソニーの人に聞いたらまったく意識されていなかったらしいです。だけどこの10年ほどで状況は大きく変わり、サムスンの飛躍はすでにご存知のとおりですよね。
こうした歴史があるので、今後10年でも状況が大きく様変わりすることは現実的に大いにありえます。そこに私たちも含め、日本のベンチャー企業が大きく関わっていくことが重要であると考えているんです。
最近シャープとの提携で話題になっている、台湾のホンハイのブランド「フォックスコン」。ここもこの10年で大成長を遂げた企業の1つです。その成功理由の1つは、Appleや任天堂商品の製造を請け負ってきたからでしょう。完成商品の核となる部分は委託側が考え、そのアッセンブルをしたのがホンハイになります。
こうして、うまく切り分けされたことで成立した事業モデルに世界がシフトチェンジしたとき、日本は変化を受け入れなかったように感じます。従来どおり、全ての過程を自分たちでやることにこだわり続けた結果、世界の企業から後れをとってきてしまったのではないかと私は思います。
【続く:2/4】
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