|
【増永】 実際に会社を立ち上げてみて、一番苦労されたことを教えてください。
創業者皆さん、同じことを体験されているかと思いますが、やはり資金繰りです。私の場合は前職での蓄えからスタートしたのですが、貯金残高がどんどん減っていく怖さはなんとも言えないですよね。
あとは、お醤油屋さん探しもなかなか大変でした。今の時代、インターネットを使えばある程度なんでも調べることができるじゃないですか。だけど本当に良いお醤油屋さん探しにおいては、インターネットさえも役立たないんですよ。
というのも、創業100年、200年を超えるようなお醤油屋さんは、比較的順調に売れているところですから、わざわざホームページを作って新規顧客開拓をする必要はないんです。そうなると、最後は自分の足で探しにいくしかありません。
そういったお醤油屋さんは、決まってアポイントを断られましたね(笑)。最初の頃は「インターネットで販売しませんか」とアポイントを取るようにしていたのですが、即お断りというケースが多かったんです。
一時期、ECサイト運営者からの営業攻勢がすごかったらしく、一度は挑戦してみたけれどなかなか成果につながらないという結果が常だったようです。すると、「またインターネットか・・・」ということになり、拒否反応が出ていました。
こうした理由から、なかなかアポイントをとることができず、一番効率的なのはアポイントなしで突撃訪問するパターンだったのです。
● 現在日本には、何軒くらいのお醤油屋さんがあるのですか。
1600軒ほどで、このうち300軒ほど足を運びました。数字的なところで見れば、まだまだ開拓の余地はあるんです。
● それでは、これまでの経営でご自分の中で起きた変化などあれば教えてください。
対お醤油屋さんとの関係性の築き方でしょうか。先ほども申しましたとおり、100年、200年の歴史あるお醤油屋さんを相手にしていたりするので、末長くお付き合いのできるような関係性を目指しています。すると、物事の判断基準が当初より変化してきて、実際の関係性にも変化が生じてきているんです。
実は最初の頃は、100mlではなく大きいサイズのお醤油を販売していました。たとえば、お醤油を味見して気に入れば、当然1リットルサイズが欲しくなります。じゃあ、それを当社のWebサイトで購入できるようにすればいい―単純にこう考えていました。そうすれば安定的な収入にもつながり、リピーターが増えるという考えです。
だけど今はこうした販売は行なっていません。要は、お醤油を気に入ったら直接お醤油屋さんから購入していただくように方針を変えました。
そうすることで、お醤油屋さんにとっては100mlが売れれば売れるほど、自分たちの宣伝にもつながるので、私に対して「どんどんやってくれ」というプラスの気持ちになるようです。
先方にもメリットが生じるような仕組みになっているので、単なる取引先という感覚ではなくて、一緒にやっているという感覚が生まれ、これまでとは異なるより良い関係性を築けていると思います。
そうした関係性になってくると、結果的に他社さんにとっては参入障壁が高まっているとも感じているんです。資本力の高いところが同じことをやろうとしてお醤油屋さんを口説きにきても、すでに私たちとお取引させていただいているところであれば、積極的には展開しないだろうという信頼関係ができています。
だから競合社はほぼいない状態の中で商売ができており、そのおかげでいろいろなことが円滑にまわっています。たとえば卸でのお話をいただいたとき、私たちぐらいしかお醤油の斡旋を行なっていないので、商品に対してもとても大切に扱ってくれるんです。そうした想いが卸し先で高まっていくと、不思議と売れ行きも好調である傾向があります。両者の想いが伝播しているように感じますね。
すべてが、いろいろなところを廻って最終的には自分のところに返ってきている―そう感じながら仕事ができているんです。「急がば回れ」とは言いますが、その通りだと思いますね。
● 競合社がいないことで、予想していなかったというようなことが起きたりなどはございますか。
そうですね、お醤油の分野でこういう動きをしている人が少ないからか、お醤油についての専門的な意見が欲しいとか、そういうお問い合わせは思いのほか多いです。いろいろ調べた結果、当社のWebサイトにたどりつく方がけっこういらっしゃるようで、テレビ番組の企画でも、お醤油の解説をしてくれないかとか、そんなお話をいただいたこともあります。
そのとき、なぜ自分に声がかかったのか不思議に思い、番組制作の方に聞いたことがあるんですよ。そうしたら、これまでは大学教授や醸造学の教授、もしくは大企業の研究員の方が対象になり、どうしても一辺倒になってしまっていたそうです。そんな中、まったく違う分野でしかも年齢も若い私がいたと(笑)。おかげさまでいろいろなメディアに取り上げていただき、新たなお客さまへの認知度を上げることにもつながったりしています。
● やはり業界的には、年齢層は高めなのですか。
お醤油屋さんと話していても、「若い人間が来ること自体が本当に珍しい」とよく言われます。しかも、私自身お醤油についての知識もそこそこあるので、きちんと話ができることに、さらに驚かれます。「変な若い奴が来たと思ったら、やたらと醤油に詳しい」って(笑)。
職人さんというのは、自分の作っているものに対して詳しい人と出会うとテンションが高くなるようで、最初こそ「忙しいから、帰ってくれ」と煙たがれるのですが、どうやら話ができる奴らしいと分かれば、醤油トークが炸裂してくるものなのです。特にこちらから営業の話をしなくても、「どうですか」と話せば、「一緒にやろうやろう」とご理解いただけます。
● 今こうして、お醤油屋さんを中心に伝統産業に接してみて、何か感じられたことはございますか。
そうですね、お醤油に限らず言えることは、直販をしていかなければならないということを強く感じています。
先ほども申したとおり、大きなサイズの商品の扱いを止めたのもまさに「直販」問題からです。
これまで、ある程度の数のお醤油屋さんを回ってみて、私なりに「本来どうあるべきか」を考えました。そうしたとき、絶対に直販を増やさなければならないという結論に至ったのです。
そう思っているのに、自分のところで1リットルを販売して、「売った分だけマージンをください」とお醤油屋さんに請求するのは・・・思っていることと実際にやっていることに大きなギャップがあると思ったのです。そこに気付いてからは、すぐに大きなサイズでの販売は止めました。そうすることで、お醤油屋さんからの直販につながりますからね。
そして消費者の方々には、お醤油屋さんに触れる機会をぜひ一度作ってほしいと思っています。お気に入りのお醤油屋さんを見つけたら、ぜひ旅行ついでにそのお醤油屋さんに立ち寄っていただきたい。どういうところで、どんな人たちが作っているのか、そういうのを見るために遊びに行ってほしいという想いが私にはあります。
一度でもお醤油を作っている方々の顔を見て話をしたことがあれば、ものすごく大きな影響が生まれると思うんです。お店でそこのお醤油を見たとき、「あ、これはあの人が作っているんだ」とか・・・そうすると、実際に食べるときにも感覚が変わってくるだろうし、それを知り合いに勧めるときだって、思いの込め方が違ってきますよね。
【続く:4/5】
|