【増永】 御社の強みでもある短納期の生産管理を支えるのは、人材にあると思うのですが、特徴的な採用方法などあればぜひ教えてください。
特別なことをしているわけではありませんが・・・採用について言えば、きっかけとなったことがありました。
産学提携を行なっていたのですが、その一環として一橋大学と早稲田大学の学生さんにインターンシップのような形できてもらっていたんですね。文系の学生さんでしたが、15人くらいを一気に現場に投入してしまいました。当然のことながら金属加工なんてまったく分からない状態です。そういう学生さんが大量に現場に入ったことで、職人さんも否が応でもコミュニケーションをとらなければなりません。
表現は悪いかもしれませんが、一般的に職人気質の人というのは、他人に教えようという気はないですからね(笑)。技術は盗め、教えられるものではない、と。自分もそういう環境で育ってきたと。
そんな彼らでも、右も左もまったく分からない学生さんに対してはさすがに態度が違いました。彼らとの間のコミュニケーションが徐々に活発になっていったんですよ。これが予想以上に会社の潤滑油となりました。
なかには、そんなことをやっている時間があるなら、1つでも2つでもモノを生産したほうがいいのではないか―という意見が社内から出たこともありました。それもそれで大切なことです。しかしながら、私たちは一体何のためにやってきているのか、ということを考え、同じ認識でいてもらうためにも理解を求めました。
どうしても理解できない社員は辞めていき、逆にこちらの求めていることの必要性を感じた社員は、自ら勉強を進めてくれました。そういう人たちは、今も会社に残ってくれています。
こうして学生さんをきっかけに社員同士のコミュニケーションが活発になったことで、ブログやホームページ等で情報を発信する機会も増えていきました。そしてそれを見て「浜野製作所で働きたい」という未経験者も集まり・・・良い人材の揃う会社となってきていると実感しています。
● 社内コミュニケーションの活発化という話もありましたが、そのあたりに関連するような取り組みなどあればぜひ教えてください。
今では特別なことでもないと思いますが、当社のような工場ではあまり他には見られない取り組みとして、ブログ形式の日報を全社員に書いてもらっています。
一般的には作業日報というものがあり、それを毎日みんな書くわけですよ。それらは工場長とかに提出されていくのですが、何十人分もの日報が上がってきても、すべてに目を通せない日だってありますよね。
1日見ないと、翌日にはその倍になって溜まっていく・・・こうして時間がないときちんと目を通すこともできず、さらにはもし重要なことが書いてあってもそれに気付くことさえできなくなります。たとえ目に付いたとしても、それを読む上司だけという限られた範囲でしか読まれません。
そこで、誰でも閲覧できる状態にするため、日報をブログ形式に変更しました。コメントもできる仕組みになっています。こうすることで、無駄な紙もなくなるし、誰もが読める環境となりました。
このブログは全員参加型で、ある程度自由な形式になっているわけですが、ただ1つルールを設けたんです。それは、人の悪口を書かないこと。これを守ってもらい、あとは業務を終えて家に帰るまでに書いてもらう―そういうフローになっています。
● スムーズに移行できましたか?
やはり何事も、最初は何かしら問題は起きますよね。特に職人さんは普段からパソコンに接しているわけではないので、まずは電源の入れ方から壁にぶつかるわけです。だけどここでどんなことが起きたかというと・・・いつもは職人さんに教わっている若い社員が、教えてあげるんですよ。最初こそ手取り足取り教えてあげるんですが、「これからは頼らず少しずつ自らやっていかないとだめですよ、そうじゃないと慣れませんよ」って、職人さんに向かって言っているんです(笑)。
パソコンを立ち上げたり、キーボードを打つにも、そういうやり取りがあったりして、実に微笑ましい光景でした。この時点で、いつもの教える側・教わる側の立場が逆転していました。
職人さんにとっては初めて教わる側になってみて、「自分は今、こいつに世話になっている。いつもなら、自分のやることを見て理解しろと偉そうに言っているけど・・・逆になったらそんなこと簡単にはできないということが分かった。見て育て、なんて無理だ。自分が教えるときは、きちんと教えてあげよう」―そう考え直すようになったそうです。
逆も然りで、教わる側から教える側になってみて、気付くこともたくさんあるようで・・・それぞれがそれぞれの立場で、さまざまな気付きを得たのです。こうしたことも影響して、社内の風通しがぐっと良くなりました。
【続く:4/5】